痴話ゲンカが、勇者の道を輝かせる?
古代アジア風の舞台で大冒険を繰り広げるアクション RPG、ジェイド エンパイア ~翡翠の帝国~。みなさんの第一印象はどのようなものだったであろう? 筆者の第一印象は、ちょっとビミョーの一言。なぜ舞台がアジアなのか、どうして格闘をメインに戦うのか。西洋ファンタジーでいいじゃない! いかに名作 RPG を作り続けてきた BioWare Corp.(TM) とはいえ、「今回はヤっちまったかな」的なネガティブイメージ全開で見ていたのである。 だが、プレイ後の筆者は一味違う。心の中では常に“ジェイド祭り”が開催中で、はっきり言ってしまえばこの原稿をほっぽりだしてもっとプレイしたいぐらいである。だが、それを実行してしまうと今後色々なデメリットが多いため、泣く泣く本稿を執筆しているわけである。いったい、何が筆者をこうも変えてしまったのか!? 筆者の色眼鏡を正してくれた要素はいくつかあるのだが、このレビューでは、敢えてサブクエストに光を当てていきたいと思う。そう、実は本作にはジェイド エンパイアの世界を旅しながら謎を解き明かしていくという壮大なメインストーリー以外にも、さまざまなサブクエストが用意されているのだ。主人公の選んだ選択次第で、物語がどんどん変っていくというのが、醍醐味ではあるのだが、サブにも関わらず、どのクエストもひと癖あるというか、妙にスッキリしない後味が、どうも尾を引くのである。そんなクエストの 1 つを紹介しよう。
主人公である筆者は、街の片隅でたたずむ女性、ランさんから「婚約者が、理由も無く悪漢から毎日いじめられ、このままでは死んでしまう。どうにかならないか」という相談を持ちかけられる。薄給に悩む筆者としては「お金はいくら持ってる?」という選択肢を本能で選び、まんまと持参金すべてを報酬として受け取る取引に成功する。せめてゲームの中でぐらい、オカネモチになりたいじゃないですか! で、そんなことはすっかり忘れて村を探索していたところ、なにやらいじめられている人を発見。世にはびこる悪とカギを掛け忘れたトランクは絶対に見逃すことができない筆者は、日ごろのストレス解消とばかり、悪漢をちぎっては投げ、ちぎっては投げして、無事いじめられている人を救ったのである。 いじめられている人 (ここでは仮に小城さんと呼ぶ) が言うには、狙われる理由は思い当たらないが、首謀者は幼馴染にして今はチンピラのボスである、アイリンという女性とのこと。くだらない日常に飽き飽きしている筆者は本能で「アイリンを始末してあげる」という選択肢を選びそうになったが、偽善者魂がこれを上回り、小城さんに代わってアイリンさんと話を付けに行くことに。ゲームの中でぐらい、女性と出会いたいじゃないですか! ……残念ながら、アイリンさんは筆者の好みではなかった。半ば投げやりになりつつ彼女の話を聞くと、なんと小城さんと結婚の約束をしているとの話。「あの二股野郎、許せねえ!」と、なぜか筆者が一番怒り、小城さんとランさんをこの場に呼ぶことに。修羅場を見学してストレスを解消しようという魂胆である。が、話を聞くうち、どうやら小城さんは子供の頃、アイリンさんと結婚の約束をした様子。小城さんは冗談半分だったようだが、アイリンさんは律儀にもその約束を守っていたのである。 正直、こんな痴話ゲンカがどうでもよくなってきた筆者は、「ランとアイリンを戦わせて決着をつける」という選択肢をアグレッシヴな本能で選びかけたが、面倒さがそれを上回った。アイリンさんを適当に言いくるめ、アイリンさん以外はハッピーエンドを迎えたのである。もらった持参金に「ずいぶん少ないな」など捨てゼリフをはき、なんかモヤモヤしたものを残しつつもこの問題は一件落着した。 現実世界のイベントでも、全員が幸せになることはほとんどありえない。筆者が本作で最も魅力を感じたのは、この世知辛い世の中だからこそ味わえる、人間関係の面白さである。
長々とサブクエストのストーリーについて語ってしまったが、主役はひきたてる脇役があってこそ、その魅力がさらに輝いてくるというものである。 本作の舞台となる古代アジア風の世界は非常に美しく、夕日がきらめく海岸の景色は絶景である。また、木漏れ日あふれる森の中は、仕事に追われて荒んだ心を癒してくれる。 アクション性豊かな戦闘シーンは、格闘や武器など、様々な戦闘スタイルが用意されている。最も自分に合った戦闘方法を選べるのはもちろん、これらを瞬時に切り替えて戦うこともできるので、総合格闘技の達人になりきれるのも大きな魅力であろう。 美しい世界に、類まれなる力を有した主人公。そして多くの仲間と世界を旅をするという、まさに王道、主役といってもよい物語。こういった壮大な世界観を引き立たせ、冒険の面白さをさらにブラッシュアップしてくれるのが、数々の庶民的なサブクエストなのだと思う。本作は確かに、王道たるメインストーリーだけでも十分プレイするに足る魅力を持っているが、なかなかどうして、サブがサブ以上に魅力を持っている。そんなサブストーリーたちに、ほんのり愛着をもってしまうのは、やはり筆者の色眼鏡だろうか。
【Writing : 板東 篤】 【筆者紹介】 ゲーム歴がそろそろ 20 年を突破したかもしれない、ゲームバカライター。件のサブクエストのあとフェミニスト魂が炸裂し、失恋してしまったアイリンさんの新しい伴侶を探すハメになったのはまた別のお話である。 |