異世界の暮らしを満喫しようぜ!
気合いの入っている 20 代後半ゲーマーならば、ピーター・モリニューという名前に聞き覚えがあるはずだ。かつて“神になって戦争する”というゲームを作り出し、その斬新さで一躍名を馳せた、類い希なるゲームデザイナーである。 彼が作るゲームは独創性に富んでおり、毎回々々、今まで見たことも聞いたこともないようなゲームを世に送り出している。しかも、どれも秀作揃いというのだから、その才能たるや恐るべしである。 だがここ数年、彼の名前をとんと聞かなかった (もしかしたら筆者の情報収集不足だけだったかもしれないが)。もう引退してしまったのかな、なんて少し寂しく感じていたところ、「ピーター・モリニューが Xbox で新作 RPG を作成中」というニュースが飛び込んできて、嬉しさと同時に軽い驚きを感じたことを記憶している。 そのタイトルこそ、Fable™である。自分の選択次第で、善も悪も楽しめてしまうという、モリニュー節が全開の本作を、ついに日本語版で遊べる日が来たのだ。
なにはともあれ、モリニュー氏、“善と悪”というテーマと“自由度”に関してはかなりこだわりがあるようで、過去にも「ダンジョンの王となってモンスターを育成し、探索に来た勇者を倒す」ゲームや、「動物のような家来が、育て方によって善にも悪にも傾く」といったゲームを作成していたことは、RPG ファンならば、周知のことだと思う。 だが筆者は、それ以上に「ガッチリとした世界観を構築するのが上手い」ということを、以前から感じていた。細部までしっかり設定が作り込まれており、ほんの些細なことからでも、そのゲームの“世界”を体感できてしまう。Fable をプレイして、最初に惹かれたのは、まさにその点だったのである。 多くの RPG において、村や街などに住む人々は、こちらからアクションを起こさないかぎり基本的に無干渉だ。移動も適当にウロウロしているだけ。 だが、本作の村の住民は全然違う。超アグレッシヴ。まず、自分が話しかけなくても、他のキャラクターと何かしゃべっている。その会話の内容も、実際に音声として聞こえてくるのだ。つまり、村に入っただけで、周囲の人々の話し声が聞こえてくるので、「俺は村に居るぜ」感をビシバシ感じられるのだ。 たとえば、見あたらない夫にいらついている奥さんの場合。夫はちょっと離れた場所で浮気をしているのだが、そのことを奥さんに告げ口すると「あの野郎~!」なんてことを叫びながら、その場所に向かって猛烈にダッシュ。その後、現場に近づくだけで、もんのすごい夫婦喧嘩の声が聞こえてきたりするのである。 さらに、夜の酒場に行くと、仕事を終えた村人達が一杯引っかけている光景にお目にかかれる。しかも、ただ酒を飲んでいるだけではなく、「ビールをおくれ」「ビール一杯ちょうだい!」「ビールにしよう」と注文している声が、ひっきりなしに聞こえてくる。本作の登場人物達は、ただ主人公にメッセージを伝えるために存在しているのではなく、「そこで生活している」ことを感じさせる、類い希な存在として、そこにいるのである。ただ、全員がビールしか注文しなかった時には、「もっとワインとか飲めよ!」と思わず突っ込んでしまったが……。
本作は、基本的には「ギルドでクエストを受け、それをクリアする」ということを繰り返すことで、ゲームが進行する。クエストとは依頼のことで、たとえば「果樹園が襲われているので助ける」や「商人をある場所まで護衛して連れていく」といった内容。いかにも駆け出しの冒険者が請け負うような内容で、庶民的なシナリオが大好きな筆者としてはかなり満足。 クエスト中に敵を倒したり、クエストをクリアすると経験値がもらえ、それを使って主人公をどんどん強化していくことができるのだが、この時、どの能力値を上昇させるかを自分で決定できることに注目したい。近接戦闘が好きな人の場合なら力や素早さといったパラメータを集中的に伸ばすという、好みに合わせてキャラを育てていけるのが、かなり楽しい。「2 回目のプレイ時には、攻撃のウィル (魔法のこと) を集中的に育ててみよう」なんて、まだ 1 回もクリアしていないのに、次の育成プランなんかも立てたくなってしまうのだ。 ここまで書いてきて気づいた方もいるかもしれないが、本作は他の海外産 RPG の多くと同じように、TTRPG (テーブルトーク RPG、紙と鉛筆とダイスで遊ぶ RPG の祖先) の影響をかなり受けている。今まで海外 RPG を遊んだことが無く、さらに「TTRPG もプレイしたことがないよ」という人にとっては、“自由度の高さ”と“作品中の主人公になりきれる”という TTRPG らしさは、かなり新鮮さを感じるのではないだろうか。 「善と悪、どちらの道も歩める」という特徴が大きく前面に出された本作。そのシステムも大変面白いのだが、筆者にとっては、上でも述べたような「その世界の中に没頭できる」という点を高く評価したい。ご大層な勇者の子孫じゃなく、「(英雄という設定だけど) 一般の冒険者」として、この世界の暮らしを一緒に共有してみませんか? そうそう、本作は他人のプレイの様子を聞くのもかなり面白い。「酒を飲みまくってゲーゲー吐いてたらモラルが下がった!」とか「村人を見かけるたび、必ず 1 回だけパンチをくらわしている」という、自分が考えもつかなかった爆笑プレイを聞けるのも、本作の楽しみ方の 1 つだと思う。
【Writing : 板東 篤】 【筆者紹介】 ゲーム歴がそろそろ 20 年を突破したかもしれない、ゲームバカライター。春先は花粉症に悩まされ、今も涙と鼻水がてんこもり状態。本作でも森のマップに突入するのを少しためらったとか。 |